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仙台高等裁判所 昭和29年(う)502号 判決 1954年10月07日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

但し本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

理由

原審検察官早川常親の控訴趣意は記録中の右検察官提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここに之を引用する。

原判決は被告人は朝鮮人で旧外国人登録令第十一条第一項の規定により登録証明書を所持するものであるところ右は外国人登録法附則第六項により同法第三条第一項の規定に拘らず、同法の規定に基いて登録証明書の交付を受けた外国人とみなされる結果、当時被告人の所持していた旧外国人登録令の規定による登録証明書は右外国人登録法施行の日から二年間有効であるから同法附則第五項、第八項により新に登録証明書の交付申請を為すの要がないので、これが手続をなさなかつたことを前提とする本件控訴事実は罪を構成しないとして無罪を言渡したことは所論のとおりである。しかしながら旧外国人登録令(以下旧令と称す)第十一条第一項に規定する者、すなわち朝鮮人及び所定の台湾人は日本国との平和条約の最初の効力発生の日から外国人となるわけである。従つて、これらの者は旧令の規定による登録証明書を所持するものであつても特則のない限り当然外国人登録法(以下新法と称す)第三条第一項の適用を受け、その外国人となつた日、すなわち新法施行の日から三十日以内に所定の手続により登録証明書の交付申請をしなければならないこととなる。しかし一般の外国人で旧令の規定による登録証明書を有するものについては新法附則第五項、第八項の規定により、より寛やかな経過措置が定められているので、これとの均衡上新法附則第六項において旧令の規定による登録証明書を所持する朝鮮人及び所定の台湾人については新法第三条第一項の規定を適用しないことを明かにするとともに、これらの者も一般の外国人で旧令による登録証明書を有するものと同様新法附則第五項第八項の規定の適用を受けることを明かにしたものと解される、従つて朝鮮人にして新法施行当時既に旧令による登録証明書を所持する者は新法附則第五項後段に規定する当該登録証明書の有効期間即ち六月の満了前三十日以内に新法第十一条第二項の規定により新に登録証明書の交付を申請しなければならないのである。然るに本件記録によれば被告人は外国人登録法施行当時旧外国人登録令による登録証明書を所持した朝鮮人であるが、右の法定期間内に居住地所轄の市長に対し同法所定の規定に基いて新に登録証明書の交付申請をしなかつたことは明かであるに拘らず本件につき前説示の如き理由の下に、犯罪を構成しないとして無罪の言渡をした原判決は法令の解釈適用を誤つたもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に則り原判決を破棄し同法第四百条但し書により当裁判所において更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は朝鮮人にして旧外国人登録令の規定による登録証明書を所持しており、昭和二十七年四月二十八日法律第百二十五号外国人登録法施行による外国人登録証明書の切替措置当時仙台市荒巻堤下南二十二番地に居住していたもので、同年七月二十八日までに居住地所轄の仙台市長に対し同法の規定に基いて新に登録証明書の交付を申請しなければならないのに拘らず右交付申請をせずその後引続き本邦に在留しているものである。

≪証拠 省略≫

(法令の適用)

被告人の判示所為は外国人登録法附則第五項、第六項、第八項、同法第十一条第二項、同法第十八条第一項第一号に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し所定罰金額の範囲内で被告人を罰金千円に処し右罰金を完納することができないときは刑法第十八条に則り金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、諸般の情勢に鑑み刑の執行を猶予するを相当と認められるので同法第二十五条により本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予すべきものとし当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但し書により被告人に負担せしめないこととし主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 細野幸雄)

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